Vol.2 座布団のヒミツ

 夏の訪れと共に始まりました倉吉未来中心ホールレター。

 Vol.1が照明とくればVol.2は舞台か音響だろうと思われる方が多いと思いますが、今回は舞台で使われる小道具の一つ、座布団の種類やお手入れの様子など、座布団のヒミツをご紹介します。
※小道具:セットに固定されていない道具のこと。セットや舞台に固定するものは大道具といいます。

 何故座布団なのか、と思ふことなかれ。座布団ひとつとっても意外と奥が深いんです。座布団ひとつ、と言いましたが今回紹介するのはふたつの座布団です。


 写真中央の赤い座布団を長座布団、手前の紫色の座布団を高座用座布団といい、これら2つの座布団を「開き足」という道具に乗せています。

 突然ですが、ここでクイズです!
これは未来中心のどこで何をしている写真でしょうか。
特にこの場所がパッと分かった方は、かなりの未来中心ツウといっていいでしょう!
正解は後半に発表します!

 それでは、最初に座布団の用途についてご紹介します。
まず、長座布団は主に日本舞踊や歌舞伎、邦楽の演奏で使われます。
ここでいう「邦楽」とは、音楽番組で紹介されるような日本のポップスミュージックのことではなく、箏や三味線で演奏する歌舞伎や雅楽(ががく)など、伝統芸能や古典芸能と呼ばれるジャンルで演奏される音楽のことを言います。


 歌舞伎のセットに長座布団を2枚設置しました。未来中心には、幅が1尺8寸、長さが2間のものと9尺のものがあります。
・・・耳慣れない単位が出てきましたね。
この単位を用いる長さの数え方を尺貫法(しゃっかんほう)といいます。1寸が3.03cm、1尺が30.3cm、1間が181.8cmです。10寸=1尺、6尺=1間です。
そのため、先程の単位をcmに直すと、幅が約54.54p、長さが約363.6cmと約272.7cm、となります。

 現代社会ではなかなか馴染みのない単位ですが、私の場合は「あ、約3cmだったから一寸法師なのか!」から入り、「一寸法師が10年経って一尺法師になって、その6年後に一間法師になって・・・」と無茶苦茶な計算式でなんとか覚えました。
「センチメートルじゃダメなのか、大体なんでピッタリ3cmじゃなくて3.03cmなんだ」と思ったことは何度もありますが、私たちのように舞台の裏方として働く人だけでなく、役者さんやそのマネージャーさん等、舞台の世界で働く全ての人にとって必要な知識ですので、将来この業界を目指している方は是非覚えておいてください。
ちなみに、舞台図面にたくさん書かれているマスは1マスが1間を表しており、尺貫法を理解していると、パッと見るだけで「あ、ここは10間間口の舞台なんだな」と舞台の大きさを掴むことが出来るようになっています。
※間口(まぐち)・・・客席から見た舞台の正面の広さのこと。袖幕やセットによって変化します。

 話を長座布団に戻しますが、先ほどの写真のように床に直接、もしくは山台と呼ばれる台を組み、その上に敷かれた長座布団に演奏される方々が座ることで、演奏中に足が痛くなるのを防ぐ役割があります。
「え?たまに邦楽を見に行くけど、そんな座布団見たことないよ」という方もおられるかもしれません。
それは長座布団を目立たないようにするために毛氈(もうせん)という赤い布を敷き、その下に長座布団を敷いているため、一見毛氈の上に直接座っている様に見える、というわけです。

 一方、高座用座布団は落語の高座で使用し、噺家さんがこの上に座ります。
一般的な座布団より大きく、縦67cm×横72cmあります。この大きさのことを夫婦判(めおとばん)と言います。また、大きいだけではなく、厚みと弾力があるのが特徴です。
 
 落語用の高座を組み、高座用座布団を設置した様子。ちなみにこの赤い布が毛氈です。

 ところで、落語の公演時に前座の方が自分の番が終わると座布団をひっくり返す、「高座返し」をご覧になったことがある方もいらっしゃると思いますが、よく見ると腕をクロスさせ左右にひっくり返しています。
これには二つ理由があり、一つはお客様の方向にホコリを飛ばさないため。
もう一つは座布団の四方のうち一つだけある縫い目のない面を常に正面にしておくことで、お客様とここでお会いしたのも何かの縁、切れることなく末永くお付き合い出来ますように、という理由があるのです。
余談ですが私の自宅にあった普通の座布団も確認したところ、縫い目のない面があったので早速正面に向けてみました。なんとなく気持ちが引き締まった気がします。

 さて、これら2種類の座布団の中身は綿が詰められています。
綿は湿気を吸収しやすく、弾力性が失われやすいという特徴があります。その失われた弾力性を取り戻すため、天日干しを行うことにしました。
日当たりのいい場所を探したところ、小ホールの上手側出入口のところが良いのではないか、ということになり、普段土足で歩くエリアのため、開き足を準備して天日干しを行った様子が最初の写真、というわけです。


 というわけで、クイズの正解は「小ホール上手側出入口通路で天日干し」でした!
周りがガラス張りで第1駐車場からも見えますので、通りがかった方は何をしているのかと不思議に思われたかもしれません。
※上手側が客席から見て右か左か忘れた・・・と言う方はVol.1をもう一度チェック!


 正面玄関右側のココです。ココ。

 約2時間で裏返し、合計4時間、太陽の光をたっぷり浴びた座布団は、見た目こそそんなに変わっていませんでしたが、触った感じがふっくらとしており、弾力性を取り戻していたのがわかりました。
これを見て、家の座布団も一度干してみよう、と思った担当でした。
※ご自宅の座布団のお手入れの際は、座布団の洗濯表示をご確認ください。

 今後ホールで座布団が使われているのを見たら、それは今回干した座布団かもしれません。このような小道具にも是非ご注目ください!

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